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判断力が鈍ると、浪費をしてしまったり重要な財産を処分してしまったりして自分自身の財産を守ることが難しくなってしまいます。そこで判断能力が不十分になった方向けに成年後見制度が用意されています。
ここで基本的な手続の種類と流れ、そして制度を利用するときに発生する費用の大きさについても解説していきますので、今後成年後見制度の利用を考えている方は参考にしていただければと思います。
成年後見を始めるための準備
まずは成年後見制度が何なのかを理解しておく必要があるでしょう。
制度の利用で何が解決できるのか、ご自身の置かれている状況において利用が適しているのか、どうやって利用を開始できるのか、費用はどれほどかかるのか、様々な疑問点があるかと思われます。
成年後見制度は、判断能力が不十分になった本人を法的に保護することができる反面、その本人の権限を制限する効果も生じます。将来に渡って継続的に利用する手続ですし、慎重な判断が求められます。
できれば法律に強い専門家の力も借りて不明点を解消していくべきです。法的な問題について広く対処できる弁護士から、登記に強い司法書士など、いくつか選択肢はあります。その中でも成年後見制度を支援した実績のあるプロを探し出すようにしましょう。
専門家への相談費用
専門家に質問をするとき、通常は相談費用がかかります。料金体系は法律事務所や司法書士事務所など、依頼先によって異なりますが、「30分あたり5,000円」「1時間あたり1万円」などと時間制で定めている例が多いです。
また、「初回相談無料」としていることもありますし、相談だけでなくその後の手続も依頼することが決まっていれば、相談については別途費用が不要になることもあります。
任意後見制度を利用するケース
制度について調べていくと「任意後見」と「法定後見」があることに気が付くでしょう。簡単に区別すると、事前の備えとして利用できるのが任意後見、事後対応として利用できるのが法定後見と説明できます。現状、判断能力に問題がないのであれば、任意後見の準備を進めておくことをおすすめします。
手続の流れ
任意後見では、財産管理や身上監護をしてほしいと考える本人と、その事務に対応する任意後見受任者が契約を締結する必要があります。そのため、その時点において本人に任意後見契約を締結するだけの判断能力は残っていないと利用はできません。
また、契約当事者となる相手方、任意後見受任者も探さなくてはなりません。次の点に着目して人を選びましょう。
l 法律上の欠格事由にあてはまらないこと
例)未成年者、破産者、本人と訴訟トラブルを起こした者など
l 利害関係の対立がないこと
例)介護・看護のサービスについて契約を交わした事業者など
l 経済力があり面倒見も良いこと
候補者が選定できれば契約内容を検討します。何をしてほしいのかよく考え、契約書を作成していきます。また、任意後見を始めるには契約書を公正証書として作らなければなりません。そこで、公証役場で作成手続を進める必要があります。
その後後見を始めるべきタイミングになれば、家庭裁判所に対して「任意後見監督人の選任」の申立てを行います。任意後見人とは別に任意後見監督人が必要ですので、この申立てを受けて監督人が選任されれば、そこからようやく後見が開始となります。
公正証書の作成と裁判所への申立て費用が必要
契約書の作成をするとき、費用が必要です。「公正証書作成手数料11,000円」が必ず必要となります。また、「収入印紙2,600円」や「登記手数料1,400円」も必要です。
また、任意後見監督人の選任について申立てをするときに「申立手数料800円」「登記手数料1,400円」も発生します。裁判所の求めに応じて「鑑定費用」が発生することもあります。鑑定が必要になる場合は数万円~10万円ほど負担が増えてしまいます。
これらに加え、申立てのときに提出する書類を発行するのにも費用がかかります。数百円程度で足りるものが多いものの、多数集めることになれば数千円~1万円以上が必要になる場合もあります。
任意後見人と任意後見監督人への報酬を支払う
成年後見制度を利用するときの費用を考えるとき、「後見人等に対する報酬」について忘れてはいけません。申立て等の手続で支払う費用は最初だけですので大きな問題ではありませんが、報酬が発生するときはその後後見対象となる方が亡くなるまで続きます。
※法律上、報酬の支払いが必須ということではない。後見人等の同意があれば無償にもできる。
その費用についても予算に組み入れて、計画的に制度の利用をする必要があるでしょう。
任意後見人については「ひと月当たり2,3万円」程度になることが多いです。ただし、任意後見契約で取り決めた事務内容の範囲が広いほど、事務の難易度が高いほど、月々の報酬額も大きく設定されます。毎月5万円、それ以上になることもあります。
また、任意後見においては任意後見監督人が必ず選任されますので、この監督人に対しても報酬が発生します。とはいえほとんどの仕事は任意後見人が実施し、監督人はそのチェックをするのが役割ですので、報酬額は任意後見人より安くなる傾向にあります。そこで「ひと月当たり1万円」程度になることも多いです。
法定後見制度を利用するケース
契約を有効に交わすことができないときは、法定後見の開始に向けて手続を進めましょう。法定後見の場合は支援対象になる本人のご家族などが申立てすることが可能です。ただし次のように法定後見には種類があり、それぞれ後見の内容と申立ての条件が異なりますので注意が必要です。
成年後見 |
|
保佐 |
・本人の判断能力が著しく不十分 |
補助 |
・本人の判断能力が不十分 |
手続の流れ
制度を利用するために本人が契約を交わす必要はありません。必要に応じて医師の診てもらい、必要書類を備えて家庭裁判所に提出すれば良いのです。
裁判所がその資料に目を通し、また、本人やそのご家族等と面談をするなどして後見等の開始をすべきかどうかを判断します。
裁判所への申立て費用が必要
契約の締結が不要である以上、任意後見で必要とされていた契約書作成にかかる各種手数料は不要となります。
ただし家庭裁判所への申立ては必要ですので、「申立手数料800円」「登記手数料1,400円」は任意後見のときと同様に発生します。また、鑑定が求められると別途数万円~10万円ほど負担が増えるのも同じです。
※代理権付与、同意権付与をさらに行うときはさらに審判申立手数料800円が必要になる。
成年後見人・保佐人・補助人への報酬を支払う
成年後見人や保佐人、補助人に対しても報酬の支払いが発生します。任意後見人と大差はなく、「ひと月当たり数万円」程度が相場とされています。
報酬額は仕事量の大きさに対応することから、成年後見人>保佐人>補助人の順に報酬額も大きくなると考えられます。ただし、裁判所は本人の経済力等も考慮して金額を決めますので、具体的な金額はケースバイケースであるといえます。
相続人が複数いるときは遺産分割を行います。どのように財産を分けるのか、いくつか遺産分割には方法がありますし、そのときに知っておきたいポイントや注意点もありますので当記事で解説をしていきます。家族間、その他の人物との間で揉め事が起こらないよう、法律上のルールも踏まえて遺産分割に臨みましょう。
遺産分割とは
亡くなった方を「被相続人」、相続財産を承継する方を「相続人」と呼びます。相続人が1人しかいないときは、相続財産をまるまる1人が取得することになりますが、相続人が複数人いるときは共同相続をすることになります。
共同相続となる場合、誰が・どの財産を・どれだけ相続するのかを決めることとなります。これを「遺産分割」と呼びます。
なお、遺産分割の方法は大きく次の3つに分けることができます。
【遺産分割の3つの方法】
・指定分割
遺産分割の方法について、遺言書で指定をされているときの遺産分割方法。取得割合を指定されていることもあれば、特定の財産を指定されていることもある。
・協議分割
遺言による指定がないものに関して、共同相続人の協議(いわゆる「遺産分割協議」のこと。)により定める遺産分割の方法。遺言書が作成されているときでも、指定のない部分については協議分割を行う。共同相続人全員の合意がなければ成立させられない。
・審判分割
遺産分割協議を成立させられないとき、相続人が遺産分割を求めて家庭裁判所に申し立てを行う。この場合の、家庭裁判所による遺産分割の方法が審判分割。なお、家庭裁判所は分割の審判を行う前に調停分割を試みるものとされている。
遺産分割協議について
相続開始後、いきなり遺産分割協議を始めることはできません。まずはいくつかの情報を調査していく必要があります。また、協議を円滑に進める上では法定相続分のことなど法律上のルールについてもある程度理解しておくことが望ましいです。
これら遺産分割協議を進めるにあたり知っておきたいことを以下にまとめていきます。
【事前に調べておくこと】
遺産分割協議に先立って、次の情報は調査しておきましょう。
・遺言書の有無とその内容
・相続財産の内容と価額
・相続人
・法定相続分と過去の贈与など
遺言書で遺産分割の方法について指定がされているときは、協議すべき範囲が狭まります。そもそも協議を行う必要もないかもしれません。そのためまずは遺言書が作られていないか、被相続人の自宅や契約していた貸金庫、公証役場などをチェックしていきます。
また、目的物となる相続財産の内容も当然把握しておかないと話が進められませんし、その話し合いに参加する相続人も全員把握しないといけません。
さらに、相続割合の指標にもなる法定相続分も調べておきましょう。ただ、実際の取得分は法定相続分から増減することもあります。特定の人物だけ大きな資産を受けていた場合などにはその分を考慮しないとバランスが取れないからです。そのため過去の贈与やその他相続分に影響を与え得る行為についても調べていきます。
具体的に何を調べないといけないのか、どうやって調べていくのか、わからないことがあるときでも弁護士に相談すれば解決できます。
【相続人は全員参加で協議を行う】
前項の情報が整理できて下準備が調えば、相続人が全員参加のもと、協議を進めていきます。
必ず、全員で協議を行うようにしましょう。参加すべき人物を1人でも欠いた遺産分割協議は無効となってしまいますので要注意です。そこで次の人物がいるときは協議に参加するよう求めましょう。
遺産分割協議の参加者
・相続人全員
配偶者は常に相続人となる。
配偶者とともに共同相続人となる人物は、子ども(第1順位)、親(第2順位)、兄弟姉妹(第3順位)の順に定まる。
※代襲相続などにより相続人の範囲が広がることもある。
・包括受遺者
相続財産の取得について、遺言書にて、割合で指定を受けた人物。特定の財産ではなく「財産の2割」などと指定されたときは権利も義務も取得することになり、その範囲で相続人と同等に扱われることから、この受遺者についても協議に参加する。
・相続分譲受人
相続人から相続分を譲り受けた人物。
・遺言執行者
遺言内容の実現を職務とする人物。遺言書による指定あるいは裁判所から指定を受けた人物。
後順位の相続人、例えば子どもが相続人になる場合における被相続人の親や兄弟姉妹については協議に参加しません。また、相続を放棄した方や欠格となった方、廃除された方なども参加しません。
※相続欠格:先順位の相続人を殺害したなど、特定の行為によって法的(自動的)に相続権を剥奪されること。
※相続廃除:被相続人に対する虐待などがあり、被相続人が相続させないよう手続を行うことで相続権を剥奪すること。
【各自の相続分を決めるポイント】
遺産分割協議は揉めることも多いです。もし、誰かが一方的に有利になるような割合で取得しようとした場合、その他の相続人から反発を受けることになるでしょう。ただ、何をもって不平等と捉えるのか、その認識を当事者間で共通させておくことが大事です。
必ずしも均等に分け合うのが良いともいえません。民法上も立場に応じた相続分を定めており、被相続人との関係性が近いほど大きな割合が得られるものとしています。例えば配偶者Aと子どもB・Cがいるとき、Aは全財産の1/2、BおよびCはそれぞれ全財産の1/4を取得することになります。配偶者の取得分は子ども倍となりますが、法定相続分を知っていればその結果を不当とは考えません。
しかしながら、具体的な相続分を調べる上では過去に被相続人から受けた財産上の利益や、被相続人のためにした行為なども考慮することが大事です。そこで①特別受益の有無、②寄与分の有無に着目しましょう。
《相続人が特別受益を受けている場合の相続分》
※特別受益:過去、被相続人から婚姻や養子縁組のため、もしくは生計の資本として受けた贈与のこと。
具体的な相続分 = (相続財産の価額+贈与価額)×法定相続分-贈与価額
なお、被相続人の配偶者(婚姻期間が20年以上)が特別受益として居住用建物等を取得していたときは、基本的に上記計算式へその価額を含めません。被相続人が「その贈与分については特別受益として扱わない」と意思表示したものとして法律上推定されるからです。
《相続人に寄与分が認められる場合の相続分》
※寄与者:被相続人の財産形成や維持について特別の寄与をした者のこと。被相続人の事業に関して労務の提供をした、あるいは財産上の給付をした、または被相続人の療養看護、その他特別の寄与をしたときに寄与分を考慮する。
具体的な相続分 = (相続財産の価額―寄与分)×法定相続分+寄与分
【不動産の分割に関するポイント】
現金や預貯金については分割も容易です。しかし不動産の場合は分割が容易ではなく、「現物分割(土地や建物など、物件単位でそのまま分ける方法)」だと相続人各自が受ける恩恵にも差が生じてしまうことがあります。
「共有」の状態とすることで平等に持分を持つこともできますが、管理・処分の面で難があり、将来的にトラブルが起こるリスクが大きくなります。そのため一般的には共有は推奨されません。
「換価分割(不動産の売却から得られた金銭を分割する方法)」や「代償分割(不動産を取得者がその他の相続人に金銭を支払って分割する方法)」などもありますので、適切な分割方法について慎重に判断することが必要でしょう。
他にも、不動産があるときに留意すべきポイントはたくさんあります。上記の、婚姻期間20年以上の夫婦間で自宅の贈与があった場合の法定相続分のこともそうですし、相続税についても無視はできません。
不動産、特に土地があるときは課税価格が大きくなりやすいため、税理士にも相談しつつどう取り扱うべきかを考える必要があるでしょう。
さらに、配偶者が暮らしていくために自宅と生活資金を得る必要があるのなら、近年法定された「配偶者居住権」の行使も検討することが大事です。これは、自宅を取得することで生活資金として使える預貯金等がほとんど取得できなくなる問題を解決するために効果を発揮します。
かつては建物の所有者と賃貸借契約を結ぶ方法で対応されていましたが、所有者に契約締結の義務はないことから配偶者の居住権が確保されないケースもあったのです。そこで配偶者居住権を法律上認め、所有権の取得より低廉な価額で居住権を得られるようにしたのです。住まいと生活資金の両方を確保する必要がある場合は、弁護士に相談して配偶者居住権についても話を進めていくと良いでしょう。
【遺産分割協議書の作成】
協議がまとまれば、その結果を「遺産分割協議書」として書き記します。この文書は、対外的に各々の取得分を証明するため、紛争の蒸し返しを防ぐためにも役立ちます。
書式の指定はありませんので、自由な形式で作成することができます。ただしトラブル防止の観点から、次の事項については必ず含めるようにしましょう。
・被相続人を特定する情報(氏名、亡くなった日、生年月日、本籍地等)
・相続人を特定する情報(氏名、住所)
・相続人全員の署名押印
・相続人各々が取得する財産を特定する情報(不動産であれば所在や地番、地目等)(預貯金であれば銀行名と支店名、口座番号等)
・作成日付
遺産分割協議の注意点
遺産分割協議を行う際、上述の通り相続人全員の合意が必要となります。そのため隠し子の存在などにも留意して相続人の調査は進めていかなければなりません。そして法定相続分を参照する場合、特別受益や寄与分なども調べていくことも大事です。
相続分に関連して、税金の負担にも留意しましょう。多く取得するほど大きな税負担がかかります。同じ相続財産でも、分割方法、特例の利用などによって税負担を小さくできることもありますので、税理士にも相談して分割方法を考えていくのも良いです。
また、遺産分割協議を行う時期にも注意しましょう。協議自体、「〇〇までに行わないといけない」などとルールは定められていません。しかしながら、相続税の申告は相続開始から10月以内に行う必要がありますので、それまでに協議を済ませておかないといけません。
建物や土地などの不動産も遺産相続の対象です。亡くなった方を被相続人とする相続が開始されると、その方が生前持っていた自宅、宅地、賃貸アパート、マンション、空き地などは相続人が取得できます。
ただし相続手続の一部には期限の定めが設けられていますので、一定期間内に適切に手続を済ませることが大事です。当記事でその流れと期限を説明していきますのでぜひ参考にしてください。
不動産相続までの手続と期限
相続人の場合、「特別な手続を行わないと遺産が受け取れない」ということはありません。法律上の規定に従い自動的に取得できます。しかし、相続に関していくつか済ませておかないといけない手続、検討すべき手続があります。それぞれに期限もありますので要注意です。
【相続開始直後にすべきこと】
相続開始後、つまり配偶者や親などのご家族の方が亡くなった後は、「死亡届の提出」をしないといけません。これは「亡くなった日から7日以内」です。亡くなってから数日経ってその事実を知ったのであればその日から7日以内でもかまいません。いずれにしても市町村など役所の窓口で死亡届の提出を行います。
その後は①遺言書、②遺産、③相続人の3点についての調査を進めます。これらの調査は法的な義務ではありませんし、期限もありません。ただし遺産分割や相続放棄などの手続を進めるために必要ですので早いうちに済ませておくことが大事です。
《調査すべき事項》
・遺言書:
遺言書が作成されているかどうか、作成されているときはその内容をチェック。ただし封のされている遺言書を自宅等で見つけたときは、開封するまえに家庭裁判所で検認の手続を行わなければならない。
・遺産:
亡くなった方が持っていた不動産、現金や預貯金、自動車、貴金属、株式などあらゆる財産の内容を調べていく。借金などの債務についても相続対象となるため、リスクの大きさを把握する意味でも必ず調べる。存在が確認できた財産については評価額も査定しておく。
・相続人:
相続の当事者である相続人を、亡くなった方の戸籍謄本から調べる。前配偶者との間に生まれた子ども、隠し子などの存在にも留意して調査を進める。
【遺産相続の検討】
遺産を調査したところ目ぼしい資産がない、それどころか大きな借金を残しており全体としての遺産総額がマイナスになる、といったケースでは遺産相続にリスクが伴います。
そこで相続人個人の財産を守るためにも「相続しないこと」の検討が大切です。
相続しない場合は「相続放棄の申述」の手続を家庭裁判所にて行います。申述が認められると相続人ではなくなり、リスクを免れることができます。
また、財産の種類・数が膨大で相続すべきかどうかの判断が難しいという場合には「限定承認の申述」の手続を家庭裁判所で行います。これにより、取得した遺産の範囲に限って債務の弁済責任を負うこととなります。
例として、1,000万円の資産と1,500万円の負債が含まれる遺産を取得したとしましょう。全体としてはマイナス500万円ですので相続放棄を検討することになりますが、その時点で具体的な金額が把握できないケースもあります。そんなとき、限定承認をしておけば1,000万円分の弁済だけで責任を果たしたことになります。500万円について自己の財産から支払う必要はありません。
しかし、ここで注意しないといけないのが期限です。
相続放棄の申述・限定承認の申述は、「相続開始から3ヶ月以内」に行わなければなりません。この期間を過ぎてしまうと遺産相続をそのまま受け入れたものとしてみなされてしまいます。
【遺産分割協議
遺産相続を受け入れる場合は、遺産分割協議を行います。
※相続人がご自身1人である場合や遺言書で全財産についての分割方法が指定されている場合には不要。
逆に共同相続する相続人がいるときは、その全員で分割方法等を決める必要があります。不動産相続をする場合は、この協議にて不動産を取得したい旨を伝えましょう。相続人全員の意見が一致すれば協議を終わらせることができます。
なお、不動産は1人だけで取得する必要はありません。1人でそのまま取得する方法を「現物分割」と呼び、他にも「共有」や「換価分割」「代償分割」などの不動産相続の方法があります。
・現物分割:不動産をそのまま取得。遺産分割のバランスを取るのが難しい。
・共有 :1つの不動産を複数人で所有する。その後の管理や処分が難しい。
・換価分割:不動産を売却して代金を分割する。売却までに時間と費用がかかる。
・代償分割:不動産を取得した方がその他の相続人に現金を支払って、バランスを取る。
それぞれに利点・難点がありますので、不動産の種類や他の遺産の内容なども考慮しつつ分割方法を検討しましょう。トラブルになりそうなときは弁護士に相談して対応してもらうと良いです。
不動産相続後の手続と期限
遺産分割協議で不動産の取得が決まっても、相続手続がすべて終わるわけではありません。必要に応じて相続税の申告、そして相続登記の手続も進めていきます。
【相続税の申告】
取得した財産の価額に応じて相続税が課税されることがあります。そこで相続税の計算を行い、ご自身に「相続税納付の義務があるのか」、納税が必要な場合は「いくら納付しないといけないのか」を調べましょう。
実際のところ、大半の方は納税や申告の必要がありません。
これは遺産に係る基礎控除額が最低でも3,000万円以上と高額に設定されているためです。遺産等の総額が基礎控除額以下であれば課税価格が0円となり、納税や申告が不要になるのです。
一方で、相続税の申告が必要になる場合は「相続開始から10ヶ月以内」という期限に注意しなければなりません。
【相続登記】
取得した遺産すべてに名義変更の手続が求められるわけではありません。しかし不動産相続においては、通常、所有権移転登記の手続により名義変更を行うこととなります。このときの手続は「相続登記」とも呼ばれます。
2023年時点で相続登記は法的な義務とはされていませんが、登記は所有者であることを示すなど、権利を主張する上で重要な仕組みです。手続を忘れていると所有権をめぐる争いで不動産を取られてしまう危険が高まってしまいます。
また、2024年4月1日以降については相続登記が法的な義務となります。法改正により義務化されるのです。登記申請の期限は「不動産を取得したから3年以内」と比較的長い期間が猶予されますが、その間にトラブルが起こらないとも限りませんので、手続に対応する時間ができればすぐにでも申請を行いましょう。
登記については司法書士に依頼することもできますので、プロに任せて効率的に相続関連の手続を進めていくと良いでしょう。
日本には「成年後見制度」というものが法律上設けられており、認知症などにより判断能力が衰えた方でも法的な保護を受けることが可能です。ただし同制度が勝手に適用されるということはなく、利用開始にあたり手続を行う必要があります。
同制度には任意後見制度と法定後見制度の2種類があり、主に本人が主導して進めるのは前者です。そこでご自身の将来に不安がある方に向けて、ここでは任意後見を開始するまでの基本的な流れを紹介し、法定後見との違いについても言及していきます。
成年後見制度の利用前にしておきたいこと
成年後見制度を利用するにあたり、まずは成年後見制度に強い法律家に相談をしておくことが望ましいです。また、成年後見制度による保護を受け続けるには費用も発生し続けますので、その負担の大きさについても把握しておくべきでしょう。
【専門家への相談】
任意後見・法定後見のいずれを利用する場合でも、本人または申立をする方は制度の内容を理解しておくべきです。成年後見制度の利用が開始された後、本人にはどのような影響があるのか、後見人などとして本人をサポートする方は誰になるのか、どのようなことをしなければならないのか、まずはある程度制度全体のイメージが掴めておいた方が良いです。
そこで弁護士や司法書士など、成年後見制度についてのサポートを行っている専門家を頼りに相談を持ち掛けてみましょう。現状に合った最適な手段についてアドバイスをもらうことが期待できます。また、これからどのような手続が必要になるのか、ということについても教えてもらえます。
【費用の把握】
任意後見制度を利用する場合、まずは本人と任意後見人となる方が契約を交わす必要があります。どのような行為について後見をしてもらうのか、任意後見では当事者間である程度自由に定めることができます。こうした取り決めを「任意後見契約」として締結しておきます。ただ、任意後見契約書は公正証書として作成する必要があり、その準備段階で1~2万円ほどは費用がかかります。
そして任意後見が開始してから、任意後見人や任意後見監督人となった方に対して報酬が発生するケースがあります。相場としては、それぞれに対して月々数万円ほどの支払いが必要です。
任意後見開始までに必要な手続
任意後見を開始するまでの流れは次の通りです。
①任意後見人になってくれる人を探す
②任意後見契約を交わす
③家庭裁判所に申し立てる
この3ステップに分けて以下で詳細を説明していきます。
【任意後見人になってくれる人を探す】
任意後見では、被後見人となる本人が後見人の候補者を選ぶことができます。
※その候補者が絶対に任意後見人になれるとは限らない。
そこでまずは任意後見人の候補者を探すところから始めます。候補者を探すときは「欠格事由に該当しないこと」「本人と利害関係に立たないこと」「任意後見人として適性があること」に着目しましょう。
任意後見人候補者の探し方
・欠格事由に該当しないこと
法律上の欠格事由は次の通り(民法第847条)。
1:未成年者
2:家庭裁判所で免ぜられた法定代理人・保佐人・補助人
3:破産者
4:被後見人と訴訟をした者・その者の配偶者・直系血族
5:行方不明者
・本人と利害関係にないこと
任意後見人になることで本人に代わって契約締結も可能となる。そこで介護サービスを実施する企業が任意後見人になった場合、自社に都合良く契約を交わすこともできてしまう。この場面における介護サービス事業者は利害関係を持つといえる。
また相続の場面では親族間でも利害関係が対立することがある。
・任意後見人として適性があること
任意後見人になる方自身に経済力があり、お金に困っていないことも重要。また、任意後見人も高齢だと近い将来その方も判断能力が低下するおそれがあるため、年齢も着目ポイント。
その他、面倒見の良さや本人の生活状況が確認しやすい場所に住所を置いていることなども重要なポイント。
よくあるのは親族が任意後見人になるケースです。信頼できるという理由で候補として挙げられることが多く、本人としても安心して今後のことを任せられるというメリットがあります。
ただし「親族だから」という理由だけで選任するのはリスクが大きいです。成年後見制度に対する知識が不十分で、後見人として適切な行為ができない可能性があります。また、不正が起こる可能性についても考える必要があります。
そこで弁護士や司法書士、社会福祉士といった専門家を選任する例もよくあります。財産管理や契約行為のサポートに必要な知識が十分ですし、プロとして行うため将来の事業継続に悪影響が及びうる不正をはたらくリスクも小さいと考えられます。
【任意後見契約を交わす】
任意後見人の候補者が見つかれば、その方と任意後見契約を交わします。
契約内容について検討する場面でもプロの意見を取り入れることが重要です。法令に抵触しないこと、その上でご自身の状況に適した契約内容となるよう設計していく必要があります。
内容の検討ができれば、公証役場にて任意後見契約書を公正証書化。そして登記をしてもらうための手続も進めます。
なお、任意後見人候補者は契約締結時点だと「任意後見受任者」と呼ばれます。任意後見監督人が選任され、実際に任意後見が開始されてから「任意後見人」となります。
【家庭裁判所への申し立て】
任意後見契約の内容に従い任意後見を開始するには、家庭裁判所に「任意後見監督人の選任」について申し立てを行わなければなりません。
そこで申立書を作成し、任意後見契約公正証書の写しや戸籍謄本など各種添付資料も準備して、申し立てをします。
申し立てが認められれば任意後見監督人が選任されます。その後任意後見に関する登記が済めば、ようやく任意後見開始となります。それ以降、任意後見契約の内容に従って任意後見人が仕事を始めます。
法定後見制度の利用について
任意後見制度は本人が契約を交わす必要があります。つまり、その時点では契約を締結するだけの判断能力が備わっていなければなりません。
一方で、この事前対策が取れないまま判断能力に問題が生じることもあるでしょう。その場合は事後対策として法定後見制度の利用を検討します。
【任意後見と法定後見の違い】
法定後見制度の場合、本人の状態に応じて「成年後見」「保佐」「補助」の3つの選択肢が用意されています。本人に判断能力がまったく残っていないような状況では成年後見を選択することになり、後見人が広く代理権を持つことになります。
判断能力が大きく衰えており重要な契約行為などを自ら行うのが困難であるときは保佐、判断能力に不安があり部分的に制限をかけて保護しておきたいという場合は補助を開始することになるでしょう。
それぞれ後見を担う方の持つ権限が異なり、成年後見・保佐・補助の順に権限は小さくなっていきます。
【後見等開始までの流れ】
法定後見の場合、判断能力の程度を示すためにもまずは医師に診察をしてもらいます。診察結果に家庭裁判所の判断が拘束されるわけではありませんが重要な資料となります。
続いて申立書、申立事情説明書、財産目録や収支予定表、親族関係図、親族の意見書を作成し、戸籍謄本などの書類も準備します。これらと費用を備え、家庭裁判所に申し立てを行います。
申立内容に問題がない場合、後見等開始についての審判が下されます。
任意後見とは違い後見人等の権限がある程度法律で規定されています。そのため本人が契約で細かく権限についての設定を行うことはありません。また、事前に公正証書を作成するなどの手続も不要です。ただしできるだけ本人が望む通りの後見を実現するには、本人に判断能力が残っているうちに任意後見の検討をすることも重要です。
遺留分は、被相続人の配偶者や子ども、親などの法定相続人に認められる最低限の遺産です。遺言書を使って全財産が第三者に遺贈されていたとしても、遺留分の限度で受遺者に対して請求を行うことが法的に認められています。
そこで当記事では、「遺留分の割合を調べる方法」と、「遺留分の請求を行うときの計算方法」を解説していきます。
遺留分の割合を調べる方法
遺留分は、定額で指定されているものではなく、遺産に対する割合で指定されています。
被相続人との続柄、法定相続分に応じて遺留分の割合は異なるため、相続人同士でもその割合に差が出ることもあります。
次項以下で、各相続人の遺留分の割合を調べる方法を説明していきます。
【手順1:総体的遺留分を調べる】
遺留分を算定する財産の価額のうち、遺言書を使っても遺留分権利者全体に留保されるべき遺産は「総体的遺留分」と呼ばれます。総体的遺留分は、次の計算式から求められます。
総体的遺留分 = 基礎財産(遺留分算定の基となる財産)×総体的遺留分割合
そして「総体的遺留分割合」については、次の通り民法に規定が置かれています。
(遺留分の帰属及びその割合)
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
つまり、下記のように整理することが可能です。
【遺留分権利者の状況】 【総体的遺留分割合】
直系卑属のみ 1/2
配偶者のみ 1/2
配偶者+直系卑属 1/2
配偶者+直系尊属 1/2
直系尊属のみ 1/3
※兄弟姉妹は遺留分権利者になれない。
直系卑属とは、被相続人の子どもや孫などのこと。直系尊属は被相続人の両親や祖父母などのことです。仮に配偶者と子どもが相続人になる場合、基礎財産の1/2が遺留分として留保されることが確定します。子どもの人数などは関係ありません。
【手順2:法定相続分から個別的遺留分を調べる】
遺留分権利者各自に留保される遺産の持分は「個別的遺留分」と呼ばれます。この個別的遺留分は、次の計算式から求められます。
個別的遺留分 = 総体的遺留分×法定相続分
法定相続分は、下記のように整理することができます。
法定相続分 法定相続分
第1順位 子ども:1/2 配偶者:1/2
第2順位 直系尊属:1/3 配偶者:2/3
第3順位 兄弟姉妹:1/4 配偶者:3/4
※配偶者は常に相続人になれる
※配偶者がいない場合は同順位の相続人で均等に分割
配偶者と子どもが相続人となる場合、前項で説明した通り、総体的遺留分割合は1/2です。そして配偶者の法定相続分はこのとき1/2ですので、個別の遺留分割合は1/4。よって、基礎財産の1/4が配偶者の個別的遺留分であると計算できます。
子どもも同様に遺留分を計算できますが、複数人いるときはその分法定相続分が小さくなります。例えば子ども2人が共同相続するとき、個別的遺留分はそれぞれ1/8となります。
遺留分侵害額請求額の計算方法
遺留分が問題となるのは、個別の遺留分すら取得できなかった場面です。その場合「遺留分侵害額請求」を受遺者等に対して行います。
例えば遺産総額が2,200万円である状況を考えてみましょう。
被相続人Xには相続人である長男Aと次男Bがおり、相続開始の5年前にAに対して300万円を贈与、20年前にBに対して600万円を贈与していました。Xには内縁の配偶者Yもいるところ、Yは相続人になれないため、XはYに対して遺産のすべてを遺贈しました。さらに遺言書には、債務200万円をAとBそれぞれに100万円ずつ承継させる旨の記載もなされていました。
以上の情報を整理すると次のようにまとめられます。
・遺産総額は2,200万円
・長男Aに対して5年前に300万円の贈与
・次男Bに対して20年前に600万円の贈与
・内縁の配偶者Yにすべての遺贈
・AとBにそれぞれ100万円の債務を承継させる
AとBの遺留分侵害額請求額はいくらになるのでしょうか。遺留分の侵害があったとして請求できる額は、基礎財産を計算した上で、個別的遺留分割合も算定しておかなければなりません。請求額の計算は、以下の手順に沿って進めていきましょう。
【手順1:基礎財産の算定】
まずは基礎財産を調べないといけません。このときの基礎財産には、相続時の積極財産と「特別受益(相続人が受けた相続開始前10年以内のもの)」、「贈与(相続人以外が受けた相続開始前1年以内のもの)」も含めます。
※当事者双方が害意をもって行った贈与については、期間の制限を受けず広く計算に含める。
その上で、相続債務などの消極財産を差し引きます。
そこで例に当てはめると、「Yが遺贈された遺産の総額2,200万円-相続債務200万円」の計算式により、基礎財産は2,000万円と算定できます。
なお、このとき遺留分権利者側が過去に受けた贈与(例にあるAの300万円、Bの600万円の贈与)は基礎財産に算入しないことに留意しましょう。そちらは遺留分“侵害額”を計算するときに考慮します。
【手順2:個別的遺留分額を算定する】
遺留分侵害額を把握するためには、もともといくらの遺留分があったのかを把握しておかないといけません。そこで個別的遺留分額を算定します。
まずは総体的遺留分割合からです。上の例に当てはめると、相続人は被相続人の子ども2人で直系卑属しかいませんので「1/2」であるとわかります。
次に個別的遺留分割合です。総体的遺留分割合1/2×法定相続分1/2を乗じて、「1/4」であると計算できます。
ここに基礎財産をさらに乗じて個別的遺留分額が算定されます。
個別的遺留分額 = 基礎財産2,000万円×個別的遺留分割合1/4
= 500万円
【手順3:遺留分侵害額請求額を算定】
相続人に特別受益がある場合、前項で計算された個別的遺留分額から差し引く必要があります。逆に、債務の承継があるときはその分を加算します。
遺留分侵害額 = 個別的遺留分額-遺留分権利者が受けた遺贈・特別受益の価額-遺留分権利者が取得する遺産+遺留分権利者が承継する債務額
例に当てはめるとこのように計算できます。
Aの遺留分侵害額 = Aの個別的遺留分額500万円-特別受益300万円-取得する遺産0万円+債務額100万円
= 300万円
Bの遺留分侵害額 = Bの個別的遺留分額500万円-特別受益600万円-取得する遺産0万円+債務額100万円
= 0万円
AはYに対して300万円の金銭を支払うよう求めることができます。一方Bは、債務100万円しか相続できていませんが、過去に600万円の贈与を受けていたことから、遺留分侵害額は0円となり請求をすることはできません。
遺留分侵害額請求の時効について
遺留分侵害額請求権は、次の民法の規定により、1年間の消滅時効にかかります。
(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
そこで①相続の開始、②遺留分を算定する基礎財産について贈与や遺贈があったこと、③遺留分が侵害されていること、の3つを知ってから1年間以内にその権利を行使する必要があります。
例えば、もっともな事情もなく単に遺言書が無効であると信じて権利を行使しなかった場合、①②③の認識があってから1年が経過していると権利が消滅します。
また、遺贈の事実は知っていたもののその金額まで把握できていないケース、遺産の総額が把握できていなかったケースなども、時効消滅への反論として認められない可能性が高いと考えられています。
面会交流に応じない相手方に対しては間接強制が一定の効果を発揮します。「面会に応じない場合、1回あたり〇〇万円の制裁金を課す」などと命じて、自発的な義務の履行を促すことができます。
ただ、間接強制は裁判所を介して利用する制度であり、常に申立てが認められるわけではありません。間接強制が認められるケースと認められないケースがありますので、ここでその傾向を掴んでおきましょう。
間接強制が認められるケース
間接強制とは「特定の義務を果たさない債務者に対し間接強制金を課して、心理的圧迫を加えることで自発的な履行を促すこと」を指します。
金銭の支払い義務であれば、強制執行により財産を差し押さえて義務を履行させることができます。しかし、義務の内容が面会交流のように強制執行が難しいタイプもあります。そのような場合に間接強制は利用されます。
例えば面会交流についての取り決めを行っていたにもかかわらず、一方の親が面会交流を拒絶するケースがあります。このとき他方の親が裁判所に間接強制の申立てを行ってこれが認められれば、裁判所が「面会交流を実施しない場合、1回につき5万円を支払うこと」などと命令を下すことができます。
【面会交流の内容が具体的に定まっている】
義務が存在していても、常に間接強制の申立てが受け入れられ、裁判所が命令を出してくれるとは限りません。面会交流に関する間接強制が認められやすいのは「面会交流の実施方法や内容が具体的に定められている場合」です。
そこで、次のような事項を事前に定めておくことが大事です。
・頻度
・日時
・1回あたりの時間
・子どもの引き渡し方法
・代替日の決め方
・面会場所
・立会の有無
間接強制が認められないケース
間接強制を申立てても認められにくいケースとして「履行すべき内容が不明瞭な場合」や「子どもに悪影響がおよぶおそれがある場合」が挙げられます。
【履行すべき内容が不明瞭】
面会交流の実施方法等が具体的に定められていると間接強制が認められやすいと説明しましたが、その反対に、履行内容が詳細でないときは認められにくい傾向にあります。
面会交流実施の程度や時間帯、長さ、内容、方法については詳細に決められていなければなりません。「1月に2回、日曜日に実施する」「1月に1回面会交流を実施するものとし、日時や場所、時間については都度の協議により決める」といった程度しか定められていない場合、間接強制は認められにくいです。
【子どもに悪影響がおよぶおそれがある】
面会交流は、子どもと別居する親のために実施するものではありません。子どもの健全な成長のために実施するものです。そのため子どもの利益にならないにも関わらず、親の「子どもに会いたい」という気持ちだけでその権利を行使できるわけではありません。
しかしながら、子ども自身の拒絶反応が絶対的な判断材料になり、面会交流が否定されるわけでもありません。特に子どもの年齢が幼い場合、子ども自身が拒絶をしていても当然に間接強制を妨げる理由にはならないのです。
その一方で、15歳の高校生が面会交流を断っているような場合は子ども自身の意思も反映されやすいです。成人に近い子どもが拒絶しているときは、間接強制も認められにくくなります。
また、子どもの引き渡しに関する事例ですが、比較的幼い子どもの拒絶反応を理由に間接強制が認められなかったケースもあります(最高裁平31.4.26決定)。
この事例は、子どもと別居していた親が子どもを引き渡す旨の裁判所の審判に基づき、間接強制の申立てをしたというものです。審判に基づいて実施したのですが、「権利の濫用」であるとして間接強制は認められませんでした。以前、引き渡しに際して子ども自身が強く拒絶し、呼吸困難に陥るほどであったという背景があったためです。
そのため、審判により権限が認められている場合であっても、常に間接強制が認容されるとは言い切れない点に注意が必要です。
間接強制の申立てにかかる費用
間接強制は裁判所を介して実行するものです。そこで申立て費用を裁判所に支払う必要があります。裁判所が提示している費用は「収入印紙2,000円」と「連絡用の郵便切手代」です。郵便切手代の具体的金額に関しては、申立て先となる裁判所で確認する必要があります。
申立てをするには、この費用に加え、「申立書」「執行力を持つ債務名義の正本」「債務名義の正本送達証明書」を準備しないといけません。執行力のある債務名義とは、調停調書や審判書、判決書のことです。
費用と必要書類を準備の上、調停・審判・判決を下した家庭裁判所に対して申立てを行いましょう。その後裁判所は面会交流についての義務者に対して、審尋という手続により意見を聴取し、間接強制を認めるべきかどうかの判断を下します。
面会交流の申立てが認容されれば、「面会交流に応じない場合、1回につき〇万円を支払いなさい」といった命令が言い渡されます。
なお、間接強制は面会交流を強制的に実現する手続ではありません。結局のところ心理的なプレッシャーを加えるに過ぎず、相手方がこれに応じてくれない可能性もあります。そのため間接強制の申立てだけでなく、弁護士に相談してその他の対策も講ずることが大切です。
遺産相続をめぐって相続人やその他関係者と揉めることがあります。特に不動産は価額が大きな財産ですし、相続による取得やその後の維持に関して手間や費用も発生します。
さまざまな要因によりトラブルが起こり、相続をきっかけに人間関係の悪化を招くおそれもあります。
この問題を防ぐためにはどうすればよいのでしょうか。当記事では不動産相続においてよくあるトラブルを紹介し、各トラブルへの対策のポイントについて解説していきます。
トラブル①:不動産の取り合い
遺産の分割方法は、基本的に相続人の間での話し合いにより定めます。
取得割合については民法で法定相続分が規定されており、配偶者と子どもが相続人になる場合はそれぞれ「1/2」が取り分となります。
配偶者と被相続人の親が相続人になるときは、配偶者が「2/3」、親が「1/3」。
配偶者と兄弟姉妹が相続人になるときは、配偶者が「3/4」、兄弟姉妹が「1/4」を取得することになります。
※配偶者以外の同順位の相続人が複数いるときは、その取得割合を人数で案分する。
ただし遺産分割協議で話し合うことで法定相続分と異なる割合で取得することもできますし、各々具体的に何を取得するのかは当事者の話し合いで決める必要があります。
現金であれば均等に分けることができるところ、不動産は分けるのが容易ではありません。そこで取り合いになりトラブルが生じることもあります。
【対策のポイント】
不動産の取り合いが起こりそうな場合、あるいはその危険性が明らかでない場合でも、被相続人が生前に「遺言書の作成」をしておくことが1つの対策になります。
遺言書に「甲土地は、配偶者Aに譲る」などと記載しておくことで取得者を定めることができ、取り合いによるトラブルを防ぐことができます。
このときの注意点として大きく2つ挙げることができます。
1つは“遺言書を作成しても不満が残る可能性があるため、事前に話し合って、納得を得ておく”ということです。
「自分がもらえるかもしれない」との余計な期待を抱かせないよう、事前に「この土地は配偶者にあげようと考えている」という旨を伝えておけば、相続開始後の人間関係の悪化なども防ぎやすくなります。
もう1つの注意点は、“遺言書を適式に作成すること”です。
遺言書は法令に準拠して作成しないと、法的な拘束力を働かせることができません。遺言内容に不満を持つ人物が無効の主張をしてくるリスクがありますので、弁護士などの専門家にサポートをしてもらい有効な遺言書を作成しましょう。
先に不動産を譲渡することに問題がなければ、生前贈与という手段も検討すると良いでしょう。
トラブル②:共有により不動産活用に弊害が生じる
不動産は、誰か1人の所有下に置く必要はありません。
複数の相続人で“共有”することも可能です。
ただ、共有をすべき特段の事情がないのであれば、これは避けるべきです。
共有することになった不動産は、その後各人自由な処分ができなくなり、扱いにくいです。
1人が「この建物を売りたい」と考えても、所有者全員の合意がなければ売却はできません。賃貸に出すのも容易ではなくなります。
【対策のポイント】
共有によるトラブルを避けるためには、遺産に含まれる不動産を放置しないことがまず必要です。遺産は自動的に相続人のものとなり、別途分割方法を定めないと共有状態になってしまいます。
そこで第一に、「共有とすべきかどうか」の検討を始めます。
共有をする必要がある場合は、共有のリスクを理解した上で、意見の合う者とのみ共有するように留意しましょう。
相続人が配偶者と子ども1人だけである場合など、近い将来単独所有になることが予想されるときは大きな問題は起こりにくいです。この場合、配偶者が亡くなると子どもが単独で所有することになります。
共有すべき積極的な理由がないときは、相続人の誰か1人の単独所有とする方向性で話を進めると良いです。
単独所有にしたからといって、その所有者以外が損をするわけではありません。不動産以外の財産を得ることでバランスを取れば問題ありません。
トラブル③:分割方法についての意見が合わない
不動産を誰が所有するのか、どのように遺産を分割するのか、といったことにつき話がまとまらないこともあるでしょう。
特に不動産が遺産総額の大半を占めているような場合だと、バランス良く相続人間で遺産分割することが難しくなってしまいます。
【対策のポイント】
遺産の分割方法を把握し、経済的利益のバランスが取れるように分割することが重要です。
不動産がある場合の遺産分割方法は、大別して4つです。
1つは上述の「共有」。その他の分割方法として「現物分割」「換価分割」「代償分割」が挙げられます。
・現物分割
不動産をそのまま相続する方法。現金と預貯金、有価証券、不動産がある場合、1人が不動産、もう1人がその他を取得する、といった分割方法。
メリット:シンプルで明瞭。手続も簡単。
デメリット:均等な価額で分割することが難しい。
・換価分割
不動産を売却して得た現金を分割する方法。
メリット:平等に遺産分割しやすい
デメリット:不動産を残すことができない
・代償分割
不動産を相続した人物が、他の相続人に金銭を支払う方法。
メリット:平等に遺産分割しやすい。不動産を残すことができる。
デメリット:不動産取得者にかかる現金の負担が大きい
不動産が唯一の遺産であった場合、平等な遺産分割とするには、不動産を共有するほか「換価分割」または「代償分割」という方法があります。
その不動産をそのまま残す必要がないのであれば、換価分割により現金化すれば容易に平等な分割が実現されます。ただし売却できるまでに時間がかかってしまいますし、自宅として使っている場合にはこの選択肢を取ることはできないでしょう。
そこで「代償分割」も検討します。不動産を取得する方に十分な現金がある場合、他の相続人に対して代償金を支払うことで問題を解決できます。しかし場合によっては数百万円もの大金を現金として渡さないといけなくなるため、常に選択できる手段でもありません。
トラブル④:取得や維持に大きなコストが発生する
遺産分割の方法や不動産の取得者につき争いがなくても、その取得や維持に関するトラブルが起こることがあります。
まず、相続するときに相続税が課税されます。不動産に限った話ではありませんが、現金を相続した方ならそのまま相続財産の一部を相続税として納付できるところ、不動産を取得した方はその他の財産から納付額を捻出しないといけません。
不動産の価値が非常に大きい場合、相続人がもともと持っていた現金等から数百万円もの税金を納めないといけなくなり、税負担の割合が大きくなってしまいます。
その後不動産を維持し続けるのにも、固定資産税がかかってきます。メンテナンスなど、管理等にも費用がかかります。
【対策のポイント】
税金等のコストが問題となりそうな場合、無理に不動産を残す必要がないのなら、「被相続人が事前に売却しておく」のも1つの手です。
不動産を残す場合でも、「遺産に対する現金等の割合を大きくしておく」ことで対処可能です。
現金のほか、現金化が容易な財産が多く残っていれば、不動産取得者がその財産から税金等を負担することができます。
不動産相続のトラブルを防ぐためには事前の対策が重要
不動産相続に伴い大きなトラブルが発生する可能性があります。
相続人同士で話し合い、上手く協議がまとまることもありますが、決着までに時間がかかったり、人間関係が悪くなったりする危険性があります。
そのため不動産があるときの相続では特に、専門家に相談することをおすすめします。
不動産を売却したり賃貸に出したり、評価額を知りたいときなどは、不動産会社など不動産そのものを専門とする業者・専門家を利用すると良いでしょう。
不動産相続に伴う相続税や固定資産税など、税制について詳しく知りたいという方は税理士を利用します。節税対策、特例や控除制度の利用などについてもアドバイスがもらえるでしょう。
その他相続手続全般のサポート、相続人間の揉め事への対処やその他関係者との交渉を求めるなら弁護士への相談が適しています。ここで紹介した一般的な対策のほか、個別の事情に合った最適な対策案を知ることができます。
遺言書を作成すれば、遺産を誰にどのように渡すのかを指定することができます。そしてその実効性を高め、効率的な遺贈手続を実現する方法に「遺言執行者の選任」があります。
遺言執行者を選任するとどうなるのか、具体的にどのような仕事をしてくれるのでしょうか。
この記事ではまず「遺言の執行とは何か」について説明した後、遺言執行者の役割、選任することのメリット・デメリットについても解説していきます。
遺言執行とは
遺言執行とは、遺言者が亡くなった後、作成された遺言書の内容に沿って遺贈や遺産分割などの手続を行うことを指します。
遺言の執行は相続人などが行うこともできますが、遺言の執行を仕事とする人物として「遺言執行者」を定めることもできます。
遺言執行者の仕事内容
遺言執行者に関しては民法に規定が置かれていますが、一つひとつの仕事内容が事細かに法定されているわけではありません。
例えば遺言執行者の権利義務として、民法第1012条第1項に「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」と定められています。抽象的に、遺言内容の実現のために必要な広範な権利および義務が与えられていることがわかります。
その上で続く第2項にて、「遺言執行者がいるとき、遺贈の履行は遺言執行者のみができる」とも規定されており、その他相続人等による遺言の執行権限を排斥しています。
(引用:e-Gov法令検索 民法)
【遺言内容の相続人への通知】
遺言執行者がしないといけない具体的な行為・仕事を挙げていきます。
まずは「遺言内容を相続人に通知する」ことが必要です。
遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
2 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。
遺言執行者としての指定を受け、それを受け入れたなら、すぐに任務遂行に取り組まないといけません。そして任務の開始をしたなら、遺言書に記載されている内容を相続人に通知すべきことが民法で法定されています。
相続人としては、遺言内容を知らされないまま遺言執行者と名乗る人物が遺産に着手しだしたのでは不安に思うことでしょう。そこで通常は、“遺言執行者として指定されたことの知らせ”および“遺言書の写しの送付”を行います。
【遺産の調査と現状把握】
遺言執行者は、遺贈などを行うことになりますが、そのためには遺産の調査をしなければなりません。「特定遺贈」として遺贈する財産が具体的に特定されていることもあれば、「包括遺贈」として割合で指定されていることもあるでしょう。
いずれにしろ、遺贈の対象となる財産の存在が把握できなければなりません。
そこで遺産を調査し、現状の把握に努めます。
不動産や現金、預貯金、動産などを探し出し、その価額についても評価していきます。必要に応じて専門家の力も借りることになるでしょう。
【財産目録の作成と相続人への交付】
民法の規定に従い、遺産の調査後は、財産目録を作成します。
遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
どんな財産が残っているのかがわかるように情報を記載し、評価額についても記載します。遺言執行者の選任がない場合でも、相続人が遺産を調査したときは財産目録を作成することが推奨されます。
他方、遺言執行者に関してはこの作成が法的義務であることに留意しなければなりません。財産目録の相続人への交付についても義務です。
【債務の弁済】
遺産に含まれる財産はプラスの価値を持つものばかりとは限りません。借金など、債務が残っていることもあるでしょう。
そこで、遺言執行者が債務の弁済などの手続を行うこともあります。
「清算型遺贈」と表現されることもあり、遺産の全部または一部を売却し、債務を弁済。その上で残った金銭を相続・遺贈するといった遺言のことを指します。
清算型遺贈が利用されるのは、「債務超過には至らないものの多額の債務が残っているケース」などです。債務の弁済に関して相続人に余計な手間をかけさせないよう、遺言執行者に任せます。
【遺言内容の実行】
遺産の調査や債務の清算なども済めば、遺言内容に従い、所定の行為を実行していきます。
遺贈を行う場合、財産を特定の人物に渡していきます。
対象物が不動産である場合には、法務局に申請をして登記の移転なども手続も行い、預貯金なども、払戻しなどの手続をして、受遺者に引き渡します。
遺言内容は、財産の移転ばかりとは限りません。
例えば子に対する「認知」も遺言により行うことができます。
「認知」とは婚姻関係になかった男女から生まれた子どもに対して、法的に自分の子どもであることを認める法律行為を意味します。その際の手続を遺言執行者が行うことになります。
また、推定相続人の「廃除」も遺言により行うことができます。
「廃除」とは相続人になる予定の人物から相続権を奪う行為のことです。推定相続人から虐待を受けていたり、重大な侮辱を受けていたりしたときは、そのことを理由に廃除をすることが可能です。ただしその意思表示をするだけでは不十分で、家庭裁判所で所定の手続を行わなければなりません。その作業を遺言執行者が担います。
遺言執行者を選任するメリット
遺言執行者を選任することには、次の通りいくつかのメリットがあります。
・遺言者の希望を叶えられる
遺言執行者を通じて、遺言者が残した最後の意思を現実に反映させることがでます。遺言執行者がいなくても実現させることは可能ですが、遺言執行者がいることでその実効性を高めることができます。
・遺贈手続が効率的に進められる
遺言執行者が遺産の調査から管理、分割、移転などにかかる作業を一手に引き受けることで、効率化な遺言執行が期待できます。
・相続人間のトラブルが防ぎやすい
相続人という遺産に直接の利害関係を持つ人物が携わるより、遺言執行者が手続を行ったほうが、相続人同士の争いやトラブルも防ぎやすいです。また、公平な遺言執行が期待できます。
遺言執行者を選任するデメリット
遺言執行者を選任することには前項に挙げた種々のメリットが得られる反面、遺言執行者に対する報酬が発生するというデメリットも生じます。
遺産の一定割合が報酬として設定されることがあり、その分受遺者や相続人の取得分が減ることになります。
また、遺言執行者が遺言の執行を担うことで相続人同士が揉めるのは防ぎやすくなりますが、遺言執行者と相続人の間でトラブルが生じる可能性もあります。特に遺言執行者として選任された人物が相続人から信頼されていないと、「不正に遺産に手をかけていないだろうか」などと疑いをかけられるリスクがあります。
遺言執行者の選び方に注意
遺言執行者を選任しておけば遺贈などの遺言執行の実効性が高まり、遺言者の意思を実現しやすくなります。
ただ、相続人から不信感を持たれている人物、その他遺産に対して何らの利害関係を持つ人物が選ばれていると、遺言執行者がトラブルの原因になってしまいます。
そこで推奨されるのが、弁護士等の専門家を遺言執行者として指定することです。中立な立場ですし、適切な遺言執行が期待できます。また、相続に関してのアドバイスを受けることができるなどの利点もあります。
相続開始により相続人となった方でも、亡くなった方の財産が手に入るとは限りません。負債を差し引いた後の資産が残っていないケースではもちろん、遺言書により「相続人以外の方に財産を渡す」といった指定をされているケースもあるからです。
しかしそのような場合でも「遺留分」という概念が法律上定められており、一定割合の財産に限り回収することが可能です。
遺留分とは具体的に何なのか、いくらの財産を回収できるのか。その方法や遺留分制度に関する注意点をここでまとめます。
遺留分とは最低限留保される相続財産のこと
遺留分は、一定の相続人に認められる、最低限留保される相続財産のことです。
本来相続財産は亡くなった方、つまり被相続人が好き勝手に処分できるはずのものです。そのため遺言書を使ってどのように処分をしようが、誰に譲渡しようが自由です。
しかし被相続人の財産を頼りに生活していた家族がいる可能性もあります。その場合まで限度なく自由な処分を許してしまうと、残された家族がその後の生活に困ってしまいます。
そこで遺留分として認められる相続財産の一定割合は、遺言書の内容に反してでも回収することができるものとして法定されています。
遺留分が認められる相続人
遺留分はすべての相続人に認められるわけではありません。
遺留分を確保できるのは、被相続人の「配偶者」「子ども」「親」などです。
子どもを代襲相続する場合「孫」にも遺留分は引き継がれます。
一方、被相続人の「兄弟姉妹」には遺留分は認められません。
そのため兄弟姉妹を代襲相続する「甥」や「姪」にも遺留分は認められません。
相続財産に対する遺留分の割合
各人の遺留分を計算するには、まず「総体的遺留分割合」を把握する必要があります。
総体的遺留分割合とは、相続財産に対する遺留分全体の割合を意味します。
そして総体的遺留分割合は、次のとおり民法で定められています。
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
つまり、
①親だけが相続人となるときの総体的遺留分割合は相続財産の1/3で、
②それ以外の配偶者や子どもなどが相続人となるときの総体的遺留分割合は1/2、
ということになります。
①は、直系尊属“のみ”が相続人であるときの割合ですので、配偶者と親が相続人になるときは②の割合が適用されます。
続いて各人の遺留分割合についてですが、こちらは「個別的遺留分割合」とも呼ばれます。
計算は簡単で、上の総体的遺留分割合に各相続人の法定相続分を掛け算するだけです。
遺留分の具体的な計算例
配偶者と2人の子どもが相続人となる場合、総体的遺留分割合は1/2です。
そして配偶者の法定相続分は1/2ですので、以下の計算式に従いこのときの配偶者の個別的遺留分割合は導き出されます。
1/2(法定相続分)×1/2(総体的遺留分割合)=1/4(個別的遺留分割合)
子ども全体の法定相続分は1/2であり、これを子どもの人数で分け合うため、子ども1人あたりの法定相続分は1/4です。
つまり次の計算式に従い各人の割合が導き出されます。
1/4(法定相続分)×1/2(総体的遺留分割合)=1/8(個別的遺留分割合)
仮に遺産総額が1,000万円であるとすれば、配偶者にはその1/4である250万円が遺留分として認められます。
子どもについては1/8にあたる125万円が遺留分として認められます。
遺留分を確保するには「遺留分侵害額請求」が必要
遺留分が問題となるのは、遺留分に満たない財産しか取得できなかった場合です。また、自動的に遺留分が確保されるわけではなく、財産を譲り受けた人物に対して請求をしないといけません。
この請求のことを「遺留分侵害額請求」と呼びます。
【遺留分の侵害とは】
上の例で考えてみましょう。遺産総額は1,000万円で、相続人は配偶者と2人の子どもです。
この場合において被相続人が遺言書で「友人Aにすべての財産を与える」といった記載を残していた場合、その財産は友人Aにすべて渡ります。
しかし相続人らには遺留分があります。
配偶者は250万円、子どもは125万円の遺留分を持つところ、一切の遺留分を確保できていません。そこでこの状態を「遺留分の侵害を受けている」と表現します。
次に、遺言書で「友人Aに600万円分の財産を与える」と記載があったとしましょう。法定相続分に従って相続人が遺産分割をしたなら、配偶者は200万円、子どもは100万円を取得できます。
しかしそれぞれ遺留分の侵害を受けている状態です。
そこで配偶者は「250万円-200万円」の50万円につき、遺留分侵害額請求ができます。
子どもは「125万円-100万円」の25万円につき、遺留分侵害額請求ができます。
【遺留分侵害額請求の流れ】
遺留分侵害額請求をするのに特別な手続は必要ありません。
受遺者と話し合い、「遺留分侵害額請求をする」旨の意思表示をすればその権利を行使したことになります。
ただ、相手方が納得して支払いに応じてくれない可能性もあります。
そんなときは「調停」へと進みます。家庭裁判所で遺留分侵害額の請求調停を申し立てます。調停で和解をするにも双方の同意が必要ですが、調停委員が間に入って調整を行ってくれるため、多くの場合はここで解決できます。
調停でも解決できない場合は、最終手段として訴訟の提起を行います。
裁判官に判断をしてもらうのです。自身に遺留分があることを立証するなどして、相手方に支払い命令を下してもらえるように主張します。訴訟になると一般の方が対応するのは難しくなるため、通常は弁護士に依頼します。
遺留分に関して相続人が注意しておきたいこと
遺留分に関して、相続人となる方が注意しておきたいルールがいくつかあります。ご自身の権利を守るためにも押さえておきましょう。
【遺留分侵害額請求権は1年の時効で消滅することがある】
注意点の1つは、権利の消滅についてです。
遺留分侵害額請求権に限らず、法律上認められる権利でも一定期間行使しなければ消滅してしまいます。ただしその消滅するまでの期間には違いがあり、同請求権に関しては次の通り規定が置かれています。
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
引用:e-Gov法令検索 民法第1048条
要は、遺留分の侵害があることを認識してから“1年以内”には請求をしないと、その権利がなくなってしまうということです。
さらに、遺留分の侵害があることを認識しないまま期間が過ぎても、相続開始から“10年”が経過すると同様に権利がなくなってしまいます。
そのため遺留分の侵害を知ったのが相続開始後9年半の時点であった場合、請求権を行使できるのは残り半年間ということになります。
【遺留分の放棄は撤回ができない】
遺留分は放棄することができます。
相続開始前に「遺留分を放棄します」との申出を家庭裁判所に行い、許可が下りたときには、その効力が生じて遺留分の請求を後で行うことはできなくなります。
推定相続人にとって遺留分の放棄は行う意味がないようにも思えますが、利点もあります。
1つは生前の放棄による「代償の受け取り」です。
生前の放棄が許可されるには、被相続人となる人物から代償として支払いがなされていることが求められます。法定されているルールではなく、絶対的な条件ではない点に留意しないといけませんが、このような運用がされているケースが多いです。
生前の代償をしてもらえることで、本来相続開始後に受け取るはずの財産を先取りすることができるのです。
もう1つは「受遺者等とのトラブルの防止」です。
遺留分をめぐって相続開始後に揉める可能性がありますが、代償を受け取り、遺留分の放棄をしておけば、このトラブルは回避することができます。
こうした利点もあり、実際、毎年数百件もの遺留分放棄がなされています。
・781件(令和3年)
・778件(令和2年)
・911件(令和元年)
出典:司法統計「令和3年 司法統計年報(家事編)」
ただし、後から「やっぱり遺留分の放棄はなかったことにしたい」と考えても取り返しはつきません。原則として遺留分の放棄の撤回はできません。
例外的に認められるケースもありますが、撤回できることを期待して行うべきではなく、今後のことをよく考えて決断することが大事です。
【他の相続人の遺留分放棄は影響しない】
自分以外の相続人が遺留分の放棄をしたとしましょう。この場合でも自身の遺留分が増えるわけではありません。
「相続放棄」をしたのであれば、相続人としての立場そのものを捨てたことになり、その他の相続人の法定相続分も増えることになります。
しかし遺留分の放棄は対外的な影響力を持ちません。
そのため計算を間違えて個別的遺留分を算出し、受遺者等に請求をしないように気を付けないといけません。
離婚後、親権者となった親は子どもを監護することになり、子どもと一緒に生活します。一方、非親権者となった親は面会交流を通して子どもとの時間を過ごすことになります。
面会交流は子どもの成長、子どもの福祉のために重要です。そのため非親権者が面会交流を求めたときは、実施する方向でその方法等を決めていくことになります。
面会交流を始める方法にはいくつかパターンがあり、以下に示す流れに沿って確定させることになります。
面会交流は夫婦間の「協議」が基本
面会交流に関する取り決めは、離婚協議の際に同時に行うのが通常です。
ただ、親権者の定めは必須とされるのに対し、面会交流についてのルールを定めることが離婚の要件とはされていません。そのため面会交流について夫婦間で“協議をしないといけない”ということではありません。離婚後に話し合って決めることも可能です。
しかしながら、離婚後の話し合いがスムーズに進むとは限りませんし、できるだけ離婚前にしっかりと協議しておくことが望ましいです。
協議の進め方や決め方についての規制もありません。夫婦間で自由に話し合って決めれば良いのです。
【面会交流に関して話し合うべき事項】
自由に面会交流について話し合えば良いのですが、基本的には以下の事項を決めていくことになります。離婚後のトラブルを防ぐためにも次の基本事項は押さえておきましょう。
①面会交流を実施する日時、頻度
・「第〇日曜の10時から12時まで」と、面会交流を実施する日時を明確に定める
・具体的に定めることで面会交流の実行性が高まる
・具体的に決めるのが難しい場合、「月に2回」「3ヶ月に1回」などと実施頻度を指定しても良い
②面会交流1回あたりの時間
・1回の面会交流で何時間一緒に過ごすのかを定める
・午前中だけ、午後だけ、あるいは1日中、可能なら具体的な時間帯を指定して定める
・子どもの年齢なども考慮して検討する必要がある
③面会交流の場所
・そこで別居親と子どもが過ごすのかを定める
・別居親の自宅、公園、その他公共の場所、子どもの年齢も考慮して決めることが大事
④子どもの引渡し方法
・子どもが1人で出歩けるのかどうかによっても異なる
・子どもが1人で待ち合わせ場所に行けない場合は、どうやって連れていくのかも考えておく
・両親の仲が悪い場合、FPIC(公益社団法人家庭問題情報センター)などの面会交流支援事業を行っている団体に相談し、付き添いを頼むのも検討する
⑤面会以外の交流方法
・直接面会するのが難しい場合に備え、他の手段も検討する
・会えない事情があるときはビデオ通話により交流をする、など
・互いの住まいが遠く毎回長距離を移動するのが大変な場合には、直接面会する方法とビデオ通話を交互に行うことを基本とするやり方もある
【面会交流に関するルールを書面にまとめる】
上に挙げた事項などを話し合って決めた後は、その内容を書面にまとめていきましょう。
面会交流について約束をしたことの証拠を残すためです。
より安全に書面化するには、“弁護士に書面を作成してもらう”ことと、“公正証書として書面作成する”方法があります。
弁護士に依頼することで、確かにその人物が同意したという真正性を確保しやすくなります。さらに、公正証書にすると原本が公証役場に保管されるため、改ざんや紛失などのリスクもなくすことができます。
厚生労働省の「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」で、母子世帯の面会交流の取り決め状況のデータが示されています。
内容を確認してみると、面会交流に関する取り決めを行った世帯のうち、約7割が「文書あり」、約3割が「文書なし」であることがわかります。また文書を作成した世帯のうち5割弱が「判決、調停、審判などの裁判所における取決め、強制執行認諾条項付きの公正証書」による文書であることも示されています。
夫婦間で決められないなら「面会交流調停」
「夫婦間の仲が悪く話し合いが進められない」「納得できない事項がある」という場合には面会交流調停の申立を検討します。
調停でも最終的な結論を出すには当事者間の同意に基づかないといけません。しかし調停を利用した話し合いでは、両親のほかに調停委員も参加します。専門家の意見も取り入れつつ話が進められ、また、対面しない方法で意見のすり合わせができるなど、落ち着いた話合いが行いやすくなるというメリットもあります。
【家庭裁判所への申立が必要】
調停を行うには、家庭裁判所に対して申立を行わなければなりません。
申立先は、相手方の住所にある家庭裁判所(または合意で定めた家庭裁判所があるならその裁判所)です。
連絡用の郵便切手代と、子ども1人あたり収入印紙1,200円を申立費用として納める必要があります。
その他準備すべき書類として、調停についての「申立書」とその写しを1通、さらに子どもの戸籍謄本(全部事項証明書)が必要です。
【数ヶ月以上の期間をかけて調停成立を目指す】
調停の場合、問題が解決するまでに数ヶ月を要することが多いです。
月に1回ほどの頻度で開かれる調停を、3,4回は繰り返すケースが多いからです。申立をしてから初回の調停期日までも1,2ヶ月を要します。対立が激しい場合にはより長期間かかってしまうでしょう。
なお、調停の期日では父母がそれぞれ別の部屋に待機し、交代に調停委員と話すこともあります。特に対面により一方に危険が及ぶ場合や萎縮してしまう場合などには、こういった配慮がなされます。
最終的には「審判手続」で裁判官が判断する
調停でも決着がつかない場合、最終的に審判手続に移行し、裁判官による判断で面会交流に関する事項が決まります。
別途申立の手続を行う必要はなく、調停が不成立になれば自動的に手続が移行します。
なお、無理に調停を先に行う必要はなく、調停での解決が到底できないと思われる場合にはいきなり審判手続を申し立てることも可能です。
【不服がある場合は高等裁判所で審理を行う】
審判手続の終結に当事者の合意は不要ですが、審理の結果に不服がある場合、“審判結果の告知を受けた日から2週間以内”であれば再度の審理を求めることができます。これを「即時抗告」といいます。
即時抗告があると、続く審理は高等裁判所で行われることになります。ただし常に即時抗告が受け入れられるわけではなく、棄却されることもありますので要注意です。