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相続の開始後、通常は亡くなった方の配偶者や子、親など相続人となる人たちで話し合って相続の手続きを進めていくことになります。しかし、その協議の前には「遺言書がないかどうかを確認」しなければなりません。
この場合、取るべき手続き内容が変わってくるからです。
以下では、遺言書が発見された場合において、どのような流れで相続手続きが進行していくのかを解説していきます。また、その遺言書の内容に納得がいかないときにはどうすれば良いのか、といったことにも言及します。
遺言書の存在が確認されたときの手続き
相続財産は身内の財産であり、本来はその身内の話し合いなどで解決していくものです。しかし遺言書がある場合にはトラブルを避ける目的などから、所定の公的手続きを行わなければなりません。勝手に遺言書の内容を執行してはいけないのです。
【封印のある遺言書は家庭裁判所で開封】
遺言書は多くの場合封印されています。
そして封印のある遺言書に関しては、家庭裁判所にて相続人等が立会い、その上で開封するというルールになっています。そのため見つけた人が勝手に開封してはいけません。遺言書の内容が書き換えられる危険を防ぐためのルールであり、このルールに背いて開封した場合、過料に処される可能性があります。
また、他の相続人から疑いをかけられるリスクも負ってしまいます。誤って開けてしまったとしても、「もしかして、中身の書き換えをしたのではないか」「捏造されていないだろうか」と不安視される可能性は十分にあります。特定の相続人に不利な内容、特定の相続人に有利な内容になっていた場合には、その疑いがより強くなるでしょう。
なお、開封したからといって常にその遺言書が無効になるわけではありません。
しかしながら、故意で遺言書を棄損したり破棄したりした場合、相続人の資格が剥奪されてしまいますので注意しましょう。
【家庭裁判所に提出して検認を行う】
遺言書には主に「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種があるのですが、このうち公正証書遺言以外に関しては、家庭裁判所で「検認」の手続きを請求しなければなりません(公正証書遺言に関しては公証人の面前で作成されているため不要)。
検認は、「相続人に対して遺言の存在とその内容を知らせる」こと、「遺言書の加除訂正の状態や日付、署名など、検認時点における遺言書の状態を明確化し、偽造変造を防止」することを目的とした手続きです。遺言の有効無効を判断するわけではありません。
検認を要するのは封印されている遺言書を開封してしまった場合でも同じです。そのままの状態で家裁に持っていき、検認を行います。
基本的な流れとしては、まず家裁に提出し、その後家裁から検認の連絡を受けます。そして検認のために立ち会う期日の指定を受け、当日現場に向かいます。
その他手続きに関する情報は下表の通りです。
①検認の申立権者
・遺言書の保管者
・遺言書を発見した相続人
②申立先
・遺言者最後の住所地を管轄する家庭裁判所
③申立費用
・遺言書1通につき、申立手数料収入印紙800円
・相続人1人あたり、予納郵便切手82円を相続人(申立人も1人にカウントする)
④基本的な添付書類
・遺言者の出生から死亡まで、すべての戸籍謄本
・遺言者の住民票の除票(または戸籍の附票)
・相続人全員の戸籍謄本
遺言書の内容に従って遺産分割を行う
検認までが相続手続きの下準備と言えます。
ここからは、遺言書の内容に沿った遺産分割を進めていきます。
なお、検認を終えた遺言の執行をするには、遺言書に「検認済証明書」が付いていなければなりません。そこで、検認済証明書の申請を行う必要があります。
【指定があれば遺言執行者が手続きを行う】
遺言に「遺言執行者の指定」がされていることもあります。
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために「相続財産の管理やその他執行に必要な一切の行為」をする者です。民法上もその目的を果たすための権利義務を有する旨規定されています。
そして、遺言執行者が指定されている場合、遺贈履行の権利は遺言執行者のみに認められます。
その反面、遺言執行者はその立場につくことを承諾したのなら、直ちに任務に取りかからなければなりません。そして任務に取りかかったのなら、遅滞なく遺言の内容を相続人に通知する法的義務も負います。
一方、相続人としても遺言執行者の指定がされているとその履行が制限されるため、就任の可否を早く把握したいところです。そこで指定された者に対して、就任するかどうかを確答すべき旨催告ができると法定されています。それにもかかわらず返答をしなかったときには、承諾したものとみなされます。
相続税の申告など、期限が設定されている手続きもありますので、なかなか遺言執行者が定まらない場合には法律に基づいた催告を行いましょう。より実効性を高めるためにも、弁護士への相談・依頼がおすすめです。
【遺言執行者がいないときは家裁に選任の申立てができる】
遺言執行者の指定がないとき、または前項の催告の結果就任しない旨の返答をされたときなどには、家裁に対して遺言執行者を選任するよう申立てることができます。
この申立てができるのは「利害関係人」です。
つまり相続人には限られず、その他遺贈を受けた者や、さらには遺言者の債権者もここに含められています。
【指定のない財産については相続人間で協議】
遺言書ですべての財産につき指定がなされているとは限りません。
そこで、記載のない財産に関しては、相続人全員で協議をして分配方法を決めていくことになります。
協議をしなければ、法定相続分に応じて分配されます。
遺言の内容に納得できないときの手続き
最後に、遺言の内容に納得いかないときの対応、具体的な手続きについて解説します。
【相続人全員の同意で遺産分割する】
遺言が残されていたとしても、相続人全員の同意により、その内容と異なる形で遺産分割することが可能です。
ただし、「相続人全員の意見の一致」が欠かせません。全員の実印を押印し、遺産分割協議書を作成しましょう。
この場合、受遺者が遺贈を事実上放棄し、その上で共同相続人間の遺産分割が実施されたものとなります。
【遺留分侵害額の請求をする】
一定の相続人には、被相続人の財産から取得できる最低限の取り分が法律上保障されていいます。これを「遺留分」と呼びます。
特に一家の経済的支柱であった人物が亡くなった場合、家族が一切の財産を得られないとなれば生活ができなくなってしまいます。こうした事態を防ぐために設けられた制度です。
被相続人がした生前贈与や遺贈によってもこの権利は奪われませんので、遺留分の侵害を受けた分に関しては、遺言の内容に背いてでも財産を得た者に対して請求が可能です(遺留分侵害額の請求)。
ただしすべての相続人に認められている権利ではありません。同制度の趣旨からして、被相続人の配偶者や子、親までは認められるのですが、兄弟姉妹にまでは認められません。
なお、遺留分侵害額の請求に関して当事者間で解決ができないという場合には家裁にて調停手続きを利用することも可能です。