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遺産の中には、借金などマイナスの価値を持つ財産が含まれていることがあります。そのため相続にあたってはプラスの財産のみならずマイナスの財産にも着目して、相続をするのかどうかの判断をしていくことが大切です。相続をしたくないのであれば「相続放棄」の手続を執らなければならないのですが、借金がある場合には注意すべきことがいくつかあります。
そこでこの記事では借金があるときの相続について、特に相続放棄に関わる手続などを解説していきます。
相続財産に借金があるとどうなるのか
遺産には様々な種類の財産が含まれます。現金や預貯金、自動車、不動産、有価証券などがあり、それぞれ承継するにあたって必要な手続が異なります。借金についても同様です。経済的にはマイナスの価値を持つものですが、被相続人が借金をしていた場合には相続人は借金を返す義務も引き継ぐことになってしまいます。
そこでプラスの財産とマイナスの財産とのバランスを考慮し、相続放棄の検討を行います。
何ら手続を行わなければ「単純承認」となり、被相続人が有していた権利や義務をそのまま相続人らが承継することになります。つまり、借金がある場合には残債務のすべてを弁済する義務を負わなくてはなりません。
単純承認せず、相続放棄もせず、「限定承認」を行うというやり方もあります。簡単に説明すると、プラスとマイナスの財産を差し引きして、プラスの財産が残ったときにその分のみを承継するといった承認方法になります。相続権を残しつつリスクを小さくできるというメリットが得られますが、手続が複雑であることやすべての相続人らで一緒に限定承認をしなければならないなどのハードルがあります。そこで限定承認はあまり利用されていないという実態があり、ここでは相続放棄に絞って言及をしていきます。
相続放棄の手順
相続放棄をするまでの流れを説明していきます。相続放棄の手続そのものはすぐに終わりますが、下準備等に多くの時間・労力を要します。
【相続財産の調査】
相続放棄をしてしまうと、一切の相続人としての権利を失うことになります。借金があるという事実のみをもって相続放棄の決断をしてしまうことのないよう留意しなければなりません。たとえ借金があったとしても、借金の額が小さく、それ以上の価値を持つ遺産がある場合には特段大きな問題とならないこともあります。
そこでまずは相続財産の調査を行いましょう。
借金の確認をするには、被相続人の口座情報をチェックしたり自宅に金銭消費貸借証書などの書類がないか確認したりすると良いです。借金の債務者であるかどうかということに加え、誰かの借金に関する保証人になっていないかどうかの確認も大事です。また、本人が亡くなってからしばらく期間が空いている場合には督促状が届いている可能性もあります。新たに届いた郵便物がないかもチェックすると良いでしょう。
【必要書類の準備】
相続財産の調査の結果、相続放棄を行うことの決断をしたのであれば、必要書類の準備を進めていきましょう。
相続放棄を行うには、相続放棄申述書と戸籍に関する書類を準備する必要があります。
相続放棄申述書に関しては家庭裁判所で入手が可能です。相続放棄をする理由などを記載していきます。
戸籍に関する書類としては、被相続人の戸籍附票または住民票除票、相続放棄する人自身の戸籍謄本が必要です。被相続人の戸籍謄本については、出生から死亡まですべてを集めておきましょう。
【相続放棄の申述手続】
上記書類の提出と手数料の支払いを行い、相続放棄の申述手続を進めます。
手数料として必要なのは収入印紙800円分と郵便切手代のみですので、大きな費用はかかりません。
なお相続放棄の申述手続ができるのは、“自身に相続開始があったことを知ってから3ヶ月”以内に限られます。
そのため「債権者から請求を受けることになればそのときに相続放棄をしよう」などと安易に考えてはいけません。相続の事実を知ったのであれば3ヶ月以内に調査や書類準備なども済ませて家庭裁判所で相続放棄の申述を行う必要があります。
相続放棄後の債権者への対応
相続放棄の申述を行い、家庭裁判所に受理がなされると、「相続放棄申述受理通知書」を受け取ることができます。これにより相続放棄をしたことの証明ができるようになります。
しかしこの通知書が全債権者に自動的に送られるわけではありません。債権者は特定の相続人につき相続放棄をしたのかどうかを知りませんし、単純承認となるのが基本ですので、相続をしたものと考え請求をしてくる可能性があります。
そこで相続放棄申述受理通知書をもって相続放棄をした旨債権者に伝えましょう。請求を受けてから対応するのではなく、相続人側から早めに伝えてあげると良いです。
手続中の財産管理に注意
相続放棄の検討中から相続放棄の申述が受理されるまで、そして受理後に至るまで、一貫して相続財産の管理には注意が必要です。
勝手に被相続人の現金や預貯金などを使ってしまうと単純承認をしたものとして扱われる可能性があります。家具の処分や契約の解約などにも要注意です。
さらに、借金の返済やその他未払いになっている家賃や医療費などへの返済も勝手に行わないよう注意しましょう。支払いを行うのではなく、現状を伝えて保留としてもらうよう求めると良いです。
財産の扱いには困ることもあるかと思いますので、弁護士などの専門家に相談するようにしましょう。