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面会交流に応じない相手方に対しては間接強制が一定の効果を発揮します。「面会に応じない場合、1回あたり〇〇万円の制裁金を課す」などと命じて、自発的な義務の履行を促すことができます。
ただ、間接強制は裁判所を介して利用する制度であり、常に申立てが認められるわけではありません。間接強制が認められるケースと認められないケースがありますので、ここでその傾向を掴んでおきましょう。
間接強制が認められるケース
間接強制とは「特定の義務を果たさない債務者に対し間接強制金を課して、心理的圧迫を加えることで自発的な履行を促すこと」を指します。
金銭の支払い義務であれば、強制執行により財産を差し押さえて義務を履行させることができます。しかし、義務の内容が面会交流のように強制執行が難しいタイプもあります。そのような場合に間接強制は利用されます。
例えば面会交流についての取り決めを行っていたにもかかわらず、一方の親が面会交流を拒絶するケースがあります。このとき他方の親が裁判所に間接強制の申立てを行ってこれが認められれば、裁判所が「面会交流を実施しない場合、1回につき5万円を支払うこと」などと命令を下すことができます。
【面会交流の内容が具体的に定まっている】
義務が存在していても、常に間接強制の申立てが受け入れられ、裁判所が命令を出してくれるとは限りません。面会交流に関する間接強制が認められやすいのは「面会交流の実施方法や内容が具体的に定められている場合」です。
そこで、次のような事項を事前に定めておくことが大事です。
・頻度
・日時
・1回あたりの時間
・子どもの引き渡し方法
・代替日の決め方
・面会場所
・立会の有無
間接強制が認められないケース
間接強制を申立てても認められにくいケースとして「履行すべき内容が不明瞭な場合」や「子どもに悪影響がおよぶおそれがある場合」が挙げられます。
【履行すべき内容が不明瞭】
面会交流の実施方法等が具体的に定められていると間接強制が認められやすいと説明しましたが、その反対に、履行内容が詳細でないときは認められにくい傾向にあります。
面会交流実施の程度や時間帯、長さ、内容、方法については詳細に決められていなければなりません。「1月に2回、日曜日に実施する」「1月に1回面会交流を実施するものとし、日時や場所、時間については都度の協議により決める」といった程度しか定められていない場合、間接強制は認められにくいです。
【子どもに悪影響がおよぶおそれがある】
面会交流は、子どもと別居する親のために実施するものではありません。子どもの健全な成長のために実施するものです。そのため子どもの利益にならないにも関わらず、親の「子どもに会いたい」という気持ちだけでその権利を行使できるわけではありません。
しかしながら、子ども自身の拒絶反応が絶対的な判断材料になり、面会交流が否定されるわけでもありません。特に子どもの年齢が幼い場合、子ども自身が拒絶をしていても当然に間接強制を妨げる理由にはならないのです。
その一方で、15歳の高校生が面会交流を断っているような場合は子ども自身の意思も反映されやすいです。成人に近い子どもが拒絶しているときは、間接強制も認められにくくなります。
また、子どもの引き渡しに関する事例ですが、比較的幼い子どもの拒絶反応を理由に間接強制が認められなかったケースもあります(最高裁平31.4.26決定)。
この事例は、子どもと別居していた親が子どもを引き渡す旨の裁判所の審判に基づき、間接強制の申立てをしたというものです。審判に基づいて実施したのですが、「権利の濫用」であるとして間接強制は認められませんでした。以前、引き渡しに際して子ども自身が強く拒絶し、呼吸困難に陥るほどであったという背景があったためです。
そのため、審判により権限が認められている場合であっても、常に間接強制が認容されるとは言い切れない点に注意が必要です。
間接強制の申立てにかかる費用
間接強制は裁判所を介して実行するものです。そこで申立て費用を裁判所に支払う必要があります。裁判所が提示している費用は「収入印紙2,000円」と「連絡用の郵便切手代」です。郵便切手代の具体的金額に関しては、申立て先となる裁判所で確認する必要があります。
申立てをするには、この費用に加え、「申立書」「執行力を持つ債務名義の正本」「債務名義の正本送達証明書」を準備しないといけません。執行力のある債務名義とは、調停調書や審判書、判決書のことです。
費用と必要書類を準備の上、調停・審判・判決を下した家庭裁判所に対して申立てを行いましょう。その後裁判所は面会交流についての義務者に対して、審尋という手続により意見を聴取し、間接強制を認めるべきかどうかの判断を下します。
面会交流の申立てが認容されれば、「面会交流に応じない場合、1回につき〇万円を支払いなさい」といった命令が言い渡されます。
なお、間接強制は面会交流を強制的に実現する手続ではありません。結局のところ心理的なプレッシャーを加えるに過ぎず、相手方がこれに応じてくれない可能性もあります。そのため間接強制の申立てだけでなく、弁護士に相談してその他の対策も講ずることが大切です。