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日本には「成年後見制度」というものが法律上設けられており、認知症などにより判断能力が衰えた方でも法的な保護を受けることが可能です。ただし同制度が勝手に適用されるということはなく、利用開始にあたり手続を行う必要があります。
同制度には任意後見制度と法定後見制度の2種類があり、主に本人が主導して進めるのは前者です。そこでご自身の将来に不安がある方に向けて、ここでは任意後見を開始するまでの基本的な流れを紹介し、法定後見との違いについても言及していきます。
成年後見制度の利用前にしておきたいこと
成年後見制度を利用するにあたり、まずは成年後見制度に強い法律家に相談をしておくことが望ましいです。また、成年後見制度による保護を受け続けるには費用も発生し続けますので、その負担の大きさについても把握しておくべきでしょう。
【専門家への相談】
任意後見・法定後見のいずれを利用する場合でも、本人または申立をする方は制度の内容を理解しておくべきです。成年後見制度の利用が開始された後、本人にはどのような影響があるのか、後見人などとして本人をサポートする方は誰になるのか、どのようなことをしなければならないのか、まずはある程度制度全体のイメージが掴めておいた方が良いです。
そこで弁護士や司法書士など、成年後見制度についてのサポートを行っている専門家を頼りに相談を持ち掛けてみましょう。現状に合った最適な手段についてアドバイスをもらうことが期待できます。また、これからどのような手続が必要になるのか、ということについても教えてもらえます。
【費用の把握】
任意後見制度を利用する場合、まずは本人と任意後見人となる方が契約を交わす必要があります。どのような行為について後見をしてもらうのか、任意後見では当事者間である程度自由に定めることができます。こうした取り決めを「任意後見契約」として締結しておきます。ただ、任意後見契約書は公正証書として作成する必要があり、その準備段階で1~2万円ほどは費用がかかります。
そして任意後見が開始してから、任意後見人や任意後見監督人となった方に対して報酬が発生するケースがあります。相場としては、それぞれに対して月々数万円ほどの支払いが必要です。
任意後見開始までに必要な手続
任意後見を開始するまでの流れは次の通りです。
①任意後見人になってくれる人を探す
②任意後見契約を交わす
③家庭裁判所に申し立てる
この3ステップに分けて以下で詳細を説明していきます。
【任意後見人になってくれる人を探す】
任意後見では、被後見人となる本人が後見人の候補者を選ぶことができます。
※その候補者が絶対に任意後見人になれるとは限らない。
そこでまずは任意後見人の候補者を探すところから始めます。候補者を探すときは「欠格事由に該当しないこと」「本人と利害関係に立たないこと」「任意後見人として適性があること」に着目しましょう。
任意後見人候補者の探し方
・欠格事由に該当しないこと
法律上の欠格事由は次の通り(民法第847条)。
1:未成年者
2:家庭裁判所で免ぜられた法定代理人・保佐人・補助人
3:破産者
4:被後見人と訴訟をした者・その者の配偶者・直系血族
5:行方不明者
・本人と利害関係にないこと
任意後見人になることで本人に代わって契約締結も可能となる。そこで介護サービスを実施する企業が任意後見人になった場合、自社に都合良く契約を交わすこともできてしまう。この場面における介護サービス事業者は利害関係を持つといえる。
また相続の場面では親族間でも利害関係が対立することがある。
・任意後見人として適性があること
任意後見人になる方自身に経済力があり、お金に困っていないことも重要。また、任意後見人も高齢だと近い将来その方も判断能力が低下するおそれがあるため、年齢も着目ポイント。
その他、面倒見の良さや本人の生活状況が確認しやすい場所に住所を置いていることなども重要なポイント。
よくあるのは親族が任意後見人になるケースです。信頼できるという理由で候補として挙げられることが多く、本人としても安心して今後のことを任せられるというメリットがあります。
ただし「親族だから」という理由だけで選任するのはリスクが大きいです。成年後見制度に対する知識が不十分で、後見人として適切な行為ができない可能性があります。また、不正が起こる可能性についても考える必要があります。
そこで弁護士や司法書士、社会福祉士といった専門家を選任する例もよくあります。財産管理や契約行為のサポートに必要な知識が十分ですし、プロとして行うため将来の事業継続に悪影響が及びうる不正をはたらくリスクも小さいと考えられます。
【任意後見契約を交わす】
任意後見人の候補者が見つかれば、その方と任意後見契約を交わします。
契約内容について検討する場面でもプロの意見を取り入れることが重要です。法令に抵触しないこと、その上でご自身の状況に適した契約内容となるよう設計していく必要があります。
内容の検討ができれば、公証役場にて任意後見契約書を公正証書化。そして登記をしてもらうための手続も進めます。
なお、任意後見人候補者は契約締結時点だと「任意後見受任者」と呼ばれます。任意後見監督人が選任され、実際に任意後見が開始されてから「任意後見人」となります。
【家庭裁判所への申し立て】
任意後見契約の内容に従い任意後見を開始するには、家庭裁判所に「任意後見監督人の選任」について申し立てを行わなければなりません。
そこで申立書を作成し、任意後見契約公正証書の写しや戸籍謄本など各種添付資料も準備して、申し立てをします。
申し立てが認められれば任意後見監督人が選任されます。その後任意後見に関する登記が済めば、ようやく任意後見開始となります。それ以降、任意後見契約の内容に従って任意後見人が仕事を始めます。
法定後見制度の利用について
任意後見制度は本人が契約を交わす必要があります。つまり、その時点では契約を締結するだけの判断能力が備わっていなければなりません。
一方で、この事前対策が取れないまま判断能力に問題が生じることもあるでしょう。その場合は事後対策として法定後見制度の利用を検討します。
【任意後見と法定後見の違い】
法定後見制度の場合、本人の状態に応じて「成年後見」「保佐」「補助」の3つの選択肢が用意されています。本人に判断能力がまったく残っていないような状況では成年後見を選択することになり、後見人が広く代理権を持つことになります。
判断能力が大きく衰えており重要な契約行為などを自ら行うのが困難であるときは保佐、判断能力に不安があり部分的に制限をかけて保護しておきたいという場合は補助を開始することになるでしょう。
それぞれ後見を担う方の持つ権限が異なり、成年後見・保佐・補助の順に権限は小さくなっていきます。
【後見等開始までの流れ】
法定後見の場合、判断能力の程度を示すためにもまずは医師に診察をしてもらいます。診察結果に家庭裁判所の判断が拘束されるわけではありませんが重要な資料となります。
続いて申立書、申立事情説明書、財産目録や収支予定表、親族関係図、親族の意見書を作成し、戸籍謄本などの書類も準備します。これらと費用を備え、家庭裁判所に申し立てを行います。
申立内容に問題がない場合、後見等開始についての審判が下されます。
任意後見とは違い後見人等の権限がある程度法律で規定されています。そのため本人が契約で細かく権限についての設定を行うことはありません。また、事前に公正証書を作成するなどの手続も不要です。ただしできるだけ本人が望む通りの後見を実現するには、本人に判断能力が残っているうちに任意後見の検討をすることも重要です。